日本の伝統的な文化でありながら、そのスピードと戦略性から「畳の上の格闘技」とも称される競技かるた。漫画やアニメの影響もあり、近年注目度が高まっていますが、その起源は一体どこにあるのでしょうか?そして、「かるたの聖地」と呼ばれる近江神宮では、どのような熱戦が繰り広げられているのでしょうか。その深い歴史と、聖地を舞台にした大会の数々をご紹介します。
📜 競技かるたの起源と歴史
現代行われている「競技かるた」は、「小倉百人一首」の「歌かるた」を用いて行われます。そのルーツを辿ると、大きく3つの段階を経て成立したことがわかります。
1. 平安時代の「貝覆い」から「歌かるた」へ
かるた遊びの起源は、平安時代(794年〜1185年頃)に貴族の間で楽しまれていた**「貝覆い(かいおおい)」**という遊びに遡ります。
- 貝覆い・貝合わせ: 二枚貝を対にして、一方に和歌の上の句や絵、もう一方に下の句や続きの絵を描き、対になる貝を探し当てる遊びでした。これは、和歌の教養を深める目的も持っていました。
- 「かるた」の語源: 室町時代(1336年〜1573年頃)の半ば、ポルトガルからカードゲームが伝来しました。このポルトガル語の**「CARTA(カルタ=カード)」**が、日本の紙製のカードを使った遊びにも使われるようになり、現在の「かるた」という言葉の語源になったとされています。
- 小倉百人一首の定着: 江戸時代に入ると、紙製の「歌かるた」が次第に庶民にも普及し、題材として藤原定家が選定した『小倉百人一首』を用いるものが最も一般的となり、お正月の遊びとして定着していきました。
2. 明治時代:統一ルールの制定と「競技」の確立
家庭での遊びだった百人一首が、「競技」として確立されたのは明治時代中期のことです。
- 競技会の萌芽: 明治25年(1892年)頃には、東京帝国大学(現在の東京大学)の学生たちによって、トーナメント形式の「かるた競技会」が開催され始めました。しかし、この頃はまだルールが統一されていませんでした。
- 「競技かるた」の誕生: 明治37年(1904年)、ジャーナリストの**黒岩涙香(くろいわるいこう)**が「東京かるた会」を創設し、第1回全国競技会を開催しました。
- 涙香は、各地でバラバラだったルールを統一し、早く札を取るための方法を分析。「競技」としての側面を確立しました。これが、現在の競技かるたのルールの基礎となったのです。
- さらに、取り札の書体を統一した「標準かるた」を考案するなど、競技かるたの全国普及に大きく貢献しました。
3. 昭和以降:全国組織の設立と現代への発展
- 大正から昭和初期にかけて全国に競技かるたが広まりましたが、第二次世界大戦によって中断を余儀なくされました。
- 全日本かるた協会の設立: 戦後の復興を経て、昭和29年(1954年)に全国統一組織として**「全日本かるた協会」**が設立されました。この設立により、競技かるたの段位認定や全国大会の開催が本格的に整備され、現代の競技かるたの基盤が築かれました。
⛩️ かるたの聖地・近江神宮と主要大会
滋賀県大津市に鎮座する近江神宮は、競技かるたに関わる人々にとって特別な場所、まさに**「かるたの聖地」**と呼ばれています。
近江神宮の主祭神は、大津京を建都した天智天皇です。天智天皇は小倉百人一首の巻頭を飾る歌「秋の田のかりほの庵のとまをあらみ…」を詠んだ歌人であり、このゆかりから近江神宮は「かるたの殿堂」として、数多くの競技かるた大会の舞台となっています。境内には研修センター**「近江勧学館」**があり、大会の主要会場となっています。

近江神宮とその周辺で開催される主要な大会は、競技かるた界における最高峰のタイトル戦から、高校生の熱い戦いまで多岐にわたります。
1. 競技かるた名人位・クイーン位決定戦
- 大会の格: かるた界における最高峰のタイトル戦です。
- 開催時期: 例年1月に開催されます。
- 概要:
- 名人位: 男子の最高位、永世名人位の称号へと続く道。
- クイーン位: 女子の最高位、永世クイーン位の称号へと続く道。
- 前年に行われた東日本・西日本の代表決定戦を勝ち上がったチャレンジャーと、現名人・現クイーンが五番勝負を戦い、その年の頂点を決定します。競技かるたの日本一を決める、最も注目される大会です。
2. 全国高等学校かるた選手権大会(かるた甲子園)
- 大会の格: 高校生かるたの頂点を決める大会。
- 開催時期: 例年7月に開催されます。
- 概要:
- 通称**「かるた甲子園」と呼ばれ、全国の高校生が一堂に会し、団体戦と個人戦**で競い合います。
- 高校生たちの熱い青春をかけた戦いが繰り広げられる、未来の名人・クイーンを輩出する登竜門的な大会です。
- 漫画『ちはやふる』でも描かれたことで、特に知名度の高い大会です。
3. 高松宮記念杯近江神宮全国大会
- 大会の格: 全国規模の一般大会。
- 開催時期: 例年4月に開催されます。
- 概要:
- 全日本かるた協会が定める階級(A〜E級など)に基づき、全国から集まった幅広い段位の選手がトーナメントで実力を競い合います。
- 特にA級(四段以上)の優勝者は、名人・クイーンの予選シード権などに関わる重要な大会です。
4. かるた祭・かるた開きの儀
- 概要:
- 「競技」としての大会ではありませんが、近江神宮で毎年1月に執り行われる、かるたにまつわる神事です。
- かるた始めの儀式として、平安時代の装束をまとった人たちが歌を詠み、かるたを払う優雅な光景が披露されます。競技かるたシーズン開幕を告げる象徴的な行事です。
結び:伝統を受け継ぎ、未来へ繋ぐ競技かるた
競技かるたは、平安時代の雅な文化をルーツに持ち、明治時代に「競技」として確立されました。そして、天智天皇を祀る近江神宮を聖地として、今もなお、多くの競技者がその技と精神を磨き続けています。
伝統と競技性が融合したこの文化は、世代を超えて受け継がれ、日本文化の一翼を担っています。近江神宮での熱戦は、その歴史の重みを感じさせるとともに、競技かるたの未来を照らす光となっています。
🌎 世界へ羽ばたく競技かるた:国際大会の種類と普及の現状
「畳の上の格闘技」と呼ばれる競技かるたは、近年、その魅力が国境を越え、世界各地で愛好者を増やしています。日本の伝統文化でありながら、スピードと戦略性が求められるその競技性から、海外の選手たちも熱い情熱を傾けています。
現在、競技かるたの「世界大会」と呼ばれるものは、滋賀県大津市(かるたの聖地・近江神宮の所在地)で開催される**「おおつ光ルくん杯競技かるた世界大会」**が主要な国際大会となっています。
1. 🏅 おおつ光ルくん杯競技かるた世界大会
近江神宮が鎮座する大津市は、「かるたの聖地」として競技かるたを通じた国際交流と観光振興に力を入れています。この取り組みの一環として、国別対抗形式の国際大会が開催されています。
- 名称: おおつ光ルくん杯 小倉百人一首競技かるた団体戦 世界大会
- 開催地: 近江神宮・近江勧学館(滋賀県大津市)
- 形式: 国別対抗の団体戦
- 概要:
- 2018年に史上初の競技かるた国別対抗団体戦として第1回大会が開催されました。
- 初期の大会では、フランス、タイ、ブラジル、アメリカ、中国、韓国、イタリア、ハンガリーなど、世界各国・地域のチームが参加し、熱戦を繰り広げました。
- コロナ禍においては、オンライン形式での世界大会も開催されており、国際的な交流の場が途切れることなく続いています。
- この大会は、大津市がかるたの聖地であることを世界に発信し、海外からの訪問を促すという重要な役割を担っています。
2. 🌍 競技かるたの海外普及と地域別大会
「世界大会」という名の単一の国際競技連盟が主催する大規模な選手権大会(例:サッカーW杯やオリンピック)は、現在のところ存在しません。しかし、全日本かるた協会の地道な普及活動や、漫画・アニメ『ちはやふる』の影響もあり、競技かるたは世界的に広がりを見せています。
海外での普及状況
全日本かるた協会の把握しているだけでも、世界10カ国以上に競技かるた会が存在し、愛好者が増え続けています。
| 地域 | 主なかるた会 | 備考 |
| アジア | タイ、中国、シンガポール、台湾、韓国、インドネシア | タイでは特に普及が進んでおり、毎年独自の大会が開催され、参加者の7割超が現地の方であるケースもあります。 |
| ヨーロッパ | フランス、イギリス(ロンドン)、ロシア(モスクワ)、イタリア、ハンガリー | ヨーロッパでも多くの国でかるた会が設立され、独自の大会も催されています。 |
| アメリカ | アメリカ(ワシントンD.C.、ニューヨークなど)、ブラジル、コロンビア | パンデミック時には、オンラインでの合同練習会が欧米を中心に活発に行われました。 |
| その他 | エジプト(カイロ)など |
地域ごとの大会
海外の各国や地域でも、国内大会や複数の国が参加する国際交流大会が独自に開催されており、競技かるたのレベルアップに貢献しています。これらの地域大会が、将来的な「世界選手権」のような国際組織による統一大会への布石となることが期待されています。
3. 🌐 競技かるたが持つ国際的な魅力
外国人が競技かるたに魅力を感じる理由として、以下の点が挙げられています。
- スポーツとしての要素: 瞬間的な判断力、俊敏性、集中力、そして持久力が求められる**「畳の上の格闘技」**という側面が、海外の競技者にも強く響いています。
- 文化体験としての要素: 百人一首を通じて、日本の古典文学や和歌の美しさに触れることができる、奥深い文化的な体験も魅力となっています。
- 『ちはやふる』の影響: 漫画・アニメ・実写映画化された作品が、海外の競技者にとって競技かるたを始める大きなきっかけとなっています。
競技かるたの国際的な広がりは、日本文化が持つ普遍的な魅力と、競技の持つスポーツとしての面白さが世界に伝わった結果と言えるでしょう。かるたの聖地・近江神宮は、今後も日本の競技者を送り出すだけでなく、世界の競技者を受け入れる国際的な拠点としての役割をますます強めていくことが予想されます。
「競技かるた」がオリンピック種目になることを目指した普及活動や議論も行われており、世界的な競技人口の増加とともに、国際大会の形もさらに進化していく可能性があります。
競技かるたの普及活動に関する動画はこちらです: “世界に広がる競技かるた”シンポジウム”
この動画は、競技かるたの海外普及の現状や今後の可能性について、実際に海外で活動する関係者や専門家が議論しているシンポジウムの様子を紹介しており、国際大会に関する質問の文脈で関連性が高いです。




